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福永知世福永知世

上質な外国映画を見たような読後感…家族とは何なのか。

不幸な少年イアンの人生に心の奥をえぐられる感覚。

「さらい屋五葉」「リストランテ・パラディーゾ」でお馴染みのオノナツメが描く家族愛。

オタク・腐女子・漫画好きでなくても、一度は読んで欲しい珠玉の1冊です。


心に響く感動の1冊!

世の中には、ヒーローが悪を倒す漫画や、若い男女が恋をする漫画が溢れていますが、なかなか家族愛に触れてくれる深い漫画には出会えません。

今回おすすめするのは、オノナツメさんの『not simple』(小学館)です。

私はこの本を友人への贈り物として何度も購入しました。オノナツメさんの絵柄はとても「かわいい!」のですが(オノクマ屋さんのTシャツも持ってますが、とてもかわいい)、漫画はストーリーが練られていて、読後に余韻が残るのが特徴。

『さらい屋五葉』『リストランテパラディーゾ』とヒット作を飛ばす中、初期作の『not simple』を押すには理由があります。

1、幸せの測り方はそれぞれでいい

主人公の少年、イアンは父と母、そして姉がいる4人家族です。しかし、そこには違和感が。愛してくれない母と、家に帰らない父。そして、世話をしてくれる最愛の姉。家族離散と共に、体を売る生活に身を落とすイアンですが、それでも愛する姉に会いたい一心で、子供ながらに苦しい状況に耐えます。一見すると不幸のどん底にいるようなイアンですが、本人に自覚はない様子。最期の最期まで、姉に会える希望を失わないのです。「親に愛されない子供」「貧困」「売春」というキーワードがある作品ですが、これらはけして他人事ではなく、また彼を「不幸な人だ」と定義付けすることは我々にはできないんだ、ということが根底に有るような気がしてなりません。自分が幸か不幸かは、自分で決めていい。他人にとやかく言われて決めつけられることではない。イアンが最期まで笑って過ごせたことは、幸せではないにしろ、不幸ではなかったのではないか、というメッセージがあるのだと思います。

2、既存の漫画への挑戦

初見で「攻めているな」と感じたのは、その表現方法です。いわゆる日本のコミックスは、ページいっぱいに細かい描写をするのが主流です。キャラクターを作り込んで、1ページ1ページが芸術作品かのように綿密に書き込まれている作品が多いです。もちろんそれは大事な漫画表現ですが、『not simple』に関しては、極端に絵柄がシンプルです。「このキャラクターが誰であるか」が、必要最低限の線でシンプルに描かれており、まさに記号としての役割としてそこにあります。その分、ストーリーに集中できるため、読後感がまるで「映画を見たような気分」になるのです。オノナツメさんの作風として一貫しているのが、そのシンプルな表現。これは既存の漫画表現への挑戦であって、ストーリー性を重視した作品としては、このシンプルな表現方法が成功している見事な例と言えるでしょう。

3、腐女子が好きなシチュエーションとは

私自身も自分が腐っている自覚があるのですが、いわゆる「BL(ボーイズラブ)」だけが腐女子の好物…ということはないと思います。現に私も商業BLは内容があざとくて萌えない、と思っているひとりです。しかし、BLも描いていらっしゃるオノさんの漫画は、「男同士が恋愛するだけじゃないんだぜ」というメッセージが色濃く反映されています。腐女子でも、腐女子でなくても、たまには重いメッセージが込められたライトな表現の作品を読んで、腐女子が好きなシチュエーションについて、ニュートラルな視点に帰ってみるのはいかがでしょうか。

最後に

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絵柄が好きで、いわゆる「ジャケ買い」で購入した一冊でしたが、買った当時は「これはいい買い物をした!」と思いました。

イアンや、彼を取り巻く周囲の人々の人間模様は、確かに“非日常”かもしれません。

映画的、劇的と言えるかもしれません。

ただ、実際にこのような問題に直面している人々がいて、あちら側とこちら側で簡単に線引きしてしまうのは、あまりにも安易ではないかと思いました。

家族問題とは、蓋を開ければ複雑なものですが、せめて縁あって隣に座った人に、親切でありたい…そういう気持ちになれる一冊です。まだ読んだことのない方は、是非ご一読ください。

not simple (IKKIコミックス)

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福永知世
福永知世(ふくながちせ)… 1983年青森市生まれ、宮城学院女子大卒。学生時代からの様々なアルバイト経験、夜のお仕事経験から学んだ人間関係を恋愛学に活かすWebライター。 男も女も視点を変えるだけで幸せになれる、をテーマに辛口に執筆している。 一児の母。